「頬の奥が痛いし、鼻も詰まるけど、そのうち自然に治るだろう」と、上顎洞炎の症状を自覚しながらも、つい放置してしまう…。そんな経験がある方もいるかもしれません。しかし、上顎洞炎を放置した場合、どのような経過を辿ることが多いのでしょうか。自然治癒するケースは限定的であり、多くは好ましくない方向へ進んでしまう可能性があります。まず、上顎洞炎の原因の多くは、風邪などのウイルス感染に引き続いて起こる細菌感染です。初期の段階では、体の免疫力が細菌と戦い、自然に治癒することもあります。この場合、数日から1週間程度で症状は徐々に軽快し、鼻水も透明になり、顔の痛みも和らいでいきます。しかし、免疫力が低下していたり、感染した細菌の力が強かったりすると、自然治癒の力だけでは太刀打ちできず、炎症は上顎洞内でさらに進行します。上顎洞は、鼻腔と細い交通路(自然口)でつながっている空洞ですが、炎症によってこの自然口が塞がってしまうと、上顎洞内に膿や分泌物がどんどん溜まっていきます。これが「急性上顎洞炎」の典型的な状態です。この段階になると、頬の痛みや圧迫感は増し、黄色や緑色の粘り気のある鼻水が大量に出るようになります。頭痛や発熱を伴うこともあり、日常生活に支障をきたすほどのつらい症状が現れます。もし、この急性上顎洞炎の段階で適切な治療(抗生物質の投与や鼻の処置など)が行われなければ、炎症はさらに長引き、慢性化へと移行するリスクが高まります。一般的に、症状が3ヶ月以上続くと「慢性上顎洞炎」と診断されます。慢性化すると、鼻の粘膜が肥厚したり、鼻の中にポリープ(鼻茸)ができたりして、常に鼻が詰まっている、匂いがわからない、後鼻漏で咳が止まらないといった症状が持続するようになります。こうなると、薬物療法だけでは改善が難しく、内視鏡を使った手術が必要になることも少なくありません。また、放置された上顎洞炎は、稀ではありますが、周囲の重要な組織に影響を及ぼすこともあります。