近年、インターネットや口コミで「重曹うがい」が話題になることが増え、その効果や安全性について多くの情報が飛び交っています。歯科医療の専門家として、この重曹うがいについて正しい知識をお伝えし、もし活用する場合の適切な方法について解説したいと思います。まず、重曹(炭酸水素ナトリウム)が口腔ケアに用いられる理由として、その弱アルカリ性の性質が挙げられます。食事をすると、口腔内は酸性に傾き、これが虫歯の大きな原因となります。重曹水でうがいをすることにより、この酸性に傾いた口腔内を中和し、虫歯菌が活動しにくい環境を作る手助けをする効果が期待されます。また、口臭の原因となる細菌の繁殖を抑えることで、口臭を軽減する可能性も指摘されています。さらに、重曹の粒子には穏やかな研磨作用があるため、歯の表面に付着した軽い着色汚れ(ステイン)を除去する効果も一部で語られています。しかし、これらの効果は限定的であり、過度な期待は禁物です。特にホワイトニング効果については、歯そのものを白くするのではなく、表面の汚れを落とすことによるものであり、歯科医院で行うホワイトニングとは全く異なります。重曹うがいを行う上で最も注意すべき点は、その研磨作用によるエナメル質への影響と、ナトリウム摂取のリスクです。高濃度で頻繁に使用したり、強くこすり合わせるようにうがいをしたりすると、歯の表面のエナメル質を摩耗させ、知覚過敏や歯質の弱体化を招く可能性があります。また、重曹はナトリウム化合物ですので、高血圧や腎臓疾患などで塩分摂取制限のある方は、飲み込まないように注意するだけでなく、使用自体を控えるか、事前に主治医に相談することが不可欠です。もし重曹うがいを取り入れるのであれば、以下の点を守ってください。第一に、必ず食用の重曹を使用すること。第二に、濃度はコップ一杯(約200ml)の水に小さじ半分(約1g)程度と、ごく薄めにすること。第三に、頻度は1日に1回程度、特に就寝前の歯磨き後などに限定すること。第四に、うがいの際は優しく口に含み、強くブクブクしないこと。そして最も重要なのは、重曹うがいは日々の丁寧なブラッシングやフロッシング、定期的な歯科検診に代わるものではないということです。