上の奥歯の虫歯や歯周病が原因で、そのすぐ上にある上顎洞に炎症が広がる「歯性上顎洞炎」。このタイプの副鼻腔炎は、一般的な鼻炎や風邪が原因で起こる上顎洞炎とは異なり、その治療法や治癒のメカニズムに大きな特徴があります。そして、患者さんが最も気になる疑問の一つが「歯性上顎洞炎は自然に治るのか?」ということでしょう。結論から申し上げますと、歯性上顎洞炎が自然に治癒することは、残念ながらほとんど期待できません。なぜなら、歯性上顎洞炎の根本的な原因は「歯の病気」にあるからです。上顎洞の炎症は、あくまで歯の病気が波及した結果として生じている二次的な症状です。そのため、いくら上顎洞の炎症に対する治療(例えば抗生物質の投与など)を行っても、大元である歯の問題が解決されない限り、炎症は再発を繰り返したり、完全に治癒しなかったりします。例えるなら、火元が燃え続けているのに、煙だけを追い払おうとしているようなものです。歯性上顎洞炎の原因となる歯の病気としては、重度の虫歯が進行して歯の根の先に膿が溜まる「根尖性歯周炎」や、歯周病が進行して歯周ポケットが深くなり、そこから細菌が上顎洞に侵入するケース、あるいは抜歯後の傷口から感染が広がるケースなどが挙げられます。これらの歯の病気は、自然に治ることはなく、歯科的な専門治療(根管治療、歯周病治療、原因歯の抜歯など)が必要です。したがって、歯性上顎洞炎を根本的に治すためには、まず耳鼻咽喉科で上顎洞の炎症を抑える治療を受けつつ、同時に歯科・口腔外科で原因となっている歯の特定と治療を徹底的に行うことが不可欠となります。歯科治療によって歯の感染源が除去されて初めて、上顎洞の炎症も鎮静化に向かい、治癒への道が開かれます。もし、歯性上顎洞炎の疑いがあるにもかかわらず、「自然に治るかもしれない」と放置してしまうと、どうなるでしょうか。まず、原因となっている歯の病気はますます進行し、歯を残すことが難しくなる可能性があります。そして、上顎洞の炎症も慢性化し、常に色のついた鼻水や後鼻漏、頬の痛み、頭痛といった不快な症状に悩まされることになります。