どんな癌でも言えることですが、特に歯肉癌においては「早期発見」が治療の成功率や予後に大きく関わってきます。では、なぜ歯肉癌は早期発見がそれほどまでに大切なのでしょうか。その理由は、歯肉癌が比較的進行が早く、周囲の組織に浸潤しやすい性質を持っているからです。歯ぐきのすぐ下には顎の骨があり、進行すると容易に骨を破壊しながら広がっていきます。また、顎の下や首にはリンパ節が多数存在しており、早期にリンパ節転移を起こしやすいという特徴もあります。初期段階で発見できれば、手術による切除範囲を最小限に抑えることが可能です。歯肉癌の手術では、癌とその周辺の健康な組織を含めて切除する必要がありますが、早期であれば歯ぐきの一部を切除するだけで済む場合が多く、歯や顎の骨への影響を最小限に抑えることができます。これにより、術後の顔貌や機能(話す、食べるなど)への影響を少なくし、QOL(生活の質)を高く保つことが期待できます。しかし、進行して顎の骨にまで浸潤したり、リンパ節に転移したりしている場合、広範囲な切除手術や、リンパ節郭清(リンパ節を取り除く手術)、放射線療法、化学療法などを組み合わせた、より大規模な治療が必要となります。こうなると、顔貌の変化や食事・会話などの機能障害が残る可能性が高くなり、治療期間も長期化し、体への負担も大きくなります。さらに、進行癌は再発や遠隔転移のリスクも高まります。だからこそ、「少しおかしいな」「治らないな」と感じたら、ためらわずにすぐに歯科医院を受診することが、ご自身の健康と将来を守るために何よりも重要なのです。