「小さい虫歯なので、まだ治療の必要はありません。経過観察しましょう」と歯科医師に言われると、少しホッとするかもしれません。しかし、それは決して「虫歯を放置して良い」という意味ではありません。むしろ、その「小さい虫歯」を進行させず、可能であれば再石灰化させて自然治癒に導くための努力が、ここから始まるのです。油断していると、気づかないうちに虫歯は進行し、より大きな治療が必要になってしまう可能性があります。では、小さい虫歯を進行させないためには、具体的にどのような予防策を講じれば良いのでしょうか。まず最も基本となるのは、毎日の丁寧なプラークコントロールです。虫歯は、歯の表面に付着したプラーク(細菌の塊)の中にいる虫歯菌が、糖分を分解して酸を作り出し、その酸によって歯が溶かされることで発生します。したがって、このプラークをいかに効果的に除去するかが鍵となります。フッ素入りの歯磨き粉を使い、歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシを併用して、歯と歯の間や歯周ポケットなど、歯ブラシの毛先が届きにくい部分のプラークもしっかりと取り除く習慣をつけましょう。歯科医院で正しいブラッシング方法の指導を受けるのも非常に有効です。次に重要なのが、フッ素の活用です。フッ素には、主に3つの効果があります。一つ目は、歯の再石灰化の促進です。溶け出したエナメル質の修復を助けます。二つ目は、歯質の強化です。歯の表面を酸に溶けにくい構造に変えます。三つ目は、虫歯菌の活動抑制です。酸を作る力を弱めます。毎日のフッ素入り歯磨き粉の使用に加え、歯科医院で定期的に高濃度のフッ素を塗布してもらうことは、小さい虫歯の進行抑制や再石灰化に非常に効果的です。そして、食生活の見直しも欠かせません。虫歯菌のエネルギー源となるのは糖分です。甘いお菓子やジュース、炭水化物の摂取回数が多いと、それだけ口腔内が酸性に傾く時間が長くなり、歯が溶けやすい環境になります。だらだら食べやだらだら飲みを避け、食事や間食の時間を決めて、摂取回数をコントロールすることが大切です。キシリトールなどの代用甘味料を利用するのも一つの方法です。さらに、唾液の役割も重要です。唾液には、酸を中和する緩衝作用や、再石灰化を促す作用、細菌の増殖を抑える自浄作用などがあります。よく噛んで食べることで唾液の分泌を促しましょう。