夜間の歯ぎしりや日中の無意識な食いしばりに悩まされている方は少なくありません。これらの症状は、歯の摩耗や破折、顎関節症、頭痛、肩こりなど、様々な不快な症状を引き起こす可能性があります。マウスピース(ナイトガード)による治療が一般的ですが、それでも改善が見られない場合や、より積極的な治療を求める方に対して、「ボトックス注射(ボツリヌス治療)」が新たな選択肢として注目されています。ボトックス注射と聞くと、美容医療におけるシワ取りのイメージが強いかもしれませんが、実は筋肉の過度な緊張を和らげる効果があるため、食いしばりの原因となる咬筋(こうきん:物を噛むときに使う筋肉)の力を弱める目的でも使用されるのです。では、具体的にボトックス注射はどのようにして食いしばりに効果を発揮するのでしょうか。そのメカニズムは、ボツリヌス菌が産生するタンパク質の一種であるボツリヌストキシンにあります。このボツリヌストキシンには、神経の末端から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質の働きを抑制する作用があります。アセチルコリンは、筋肉を収縮させるための信号を伝える役割を担っているため、その放出が抑えられると、筋肉は収縮しにくくなります。食いしばりの場合、主にエラの部分にある咬筋にボトックスを注射します。すると、咬筋の過剰な収縮力が弱まり、無意識に行っていた食いしばりの力が軽減されるのです。重要なのは、ボトックスは筋肉を完全に麻痺させるわけではなく、あくまで「過剰な働きを適度に弱める」という点です。そのため、食事の際の咀嚼機能に大きな支障が出ることは通常ありません。むしろ、強すぎる咬筋の力が緩和されることで、顎の疲れが軽減されたり、スムーズな開閉ができるようになったりする効果も期待できます。ボトックス注射の効果は、通常、注射後数日から1週間程度で徐々に現れ始め、1ヶ月後くらいにピークに達します。そして、その効果は一般的に3ヶ月から6ヶ月程度持続すると言われています。効果の持続期間には個人差があり、筋肉の強さや生活習慣などによって異なります。
食いしばり改善にボトックス注射!効果とメカニズムを解説