あなたは歯磨きをする時、どれくらいの力を入れていますか?「力を入れてゴシゴシ磨かないと、汚れが落ちない」「磨いた気がしない」と感じている方もいるかもしれません。しかし、この「強く磨けば歯が綺麗になる」という考え方は、実は大きな間違いであり、「歯磨き やりすぎ」の典型的なパターンです。多くの人が持つこの「常識」が、かえって歯や歯ぐきに深刻なダメージを与えているケースが少なくありません。歯の表面は確かに硬いですが、それは無限の耐久性を持つわけではありません。強い力で日常的に磨き続けると、歯の表面のエナメル質は少しずつ削れて薄くなっていきます。特に、歯と歯ぐきの境目はエナメル質が薄く、デリケートな部分です。この部分が強い力で磨かれると、「くさび状欠損」という V字型の削れが生じやすく、見た目の問題だけでなく、知覚過敏や虫歯のリスクを高めます。さらに、歯ぐきは非常に柔らかい組織です。強いブラッシング圧は歯ぐきを傷つけ、炎症や出血の原因となります。長期的に見ると、歯ぐきが退縮(下がってしまうこと)を引き起こし、歯の根元が露出してしまいます。歯の根元はエナメル質で覆われていないため、一度露出すると虫歯になりやすく、また歯周病も進行しやすくなります。下がってしまった歯ぐきは、自然に元の位置に戻ることはほとんどありません。では、どのように磨くのが正しいのでしょうか?歯の汚れの主な原因であるプラーク(歯垢)は、細菌の塊です。これはネバネバしていますが、強い力でこする必要はありません。歯ブラシの毛先を歯の表面や歯と歯ぐきの境目に適切に当てて、軽い力で小刻みに動かすことで、プラークは十分に除去できます。大切なのは「力」ではなく「毛先を当てる場所」と「動かし方」なのです。適切なブラッシング圧の目安は、歯ブラシの毛先が広がらない程度、およそ100~200グラムと言われています。これは、鉛筆を持つくらいの軽い握りで実現できる力です。もしあなたが強く磨く癖があるなら、意識的に力を抜いて、歯ブラシの重みだけで磨くくらいの感覚を試してみてください。「歯磨き やりすぎ」は、せっかくの歯磨き努力を水の泡にしてしまうだけでなく、新たな問題を生み出します。「強く磨けば綺麗」という古い常識を捨て、優しく丁寧に、そして正しい方法で磨くことこそが、健康な歯と歯ぐきを長く保つための鍵となります。