食いしばりや歯ぎしりによる様々な不快症状の改善に期待が持てるボトックス注射ですが、治療を検討する上で気になるのが費用面、特に保険適用の有無ではないでしょうか。結論から言うと、現在の日本の医療制度において、食いしばりや歯ぎしりの治療目的で行われるボトックス注射は、原則として保険適用外の自由診療となります。ボトックス(ボツリヌストキシン製剤)は、眼瞼痙攣や片側顔面痙攣、痙性斜頸、重度の原発性腋窩多汗症、斜視、上肢・下肢痙縮、そして最近では過活動膀胱や慢性片頭痛など、特定の疾患に対しては保険適用が認められています。しかし、残念ながら、食いしばりや歯ぎしり、あるいはそれに伴う顎関節症の症状緩和を目的とした使用は、現時点では保険診療の対象とはなっていません。そのため、治療にかかる費用は全額自己負担となります。では、自由診療となる食いしばりボトックスの費用相場はどのくらいなのでしょうか。これは、使用するボトックス製剤の種類(アラガン社の「ボトックスビスタ®」が国内で唯一厚生労働省の承認を得ている製剤ですが、その他に韓国製などの製剤を使用するクリニックもあります)、注入するボトックスの単位数(量)、そしてクリニックの方針によって大きく異なります。一般的には、1回の治療で両側の咬筋(こうきん)に合わせて40単位から100単位程度のボトックスを使用することが多く、費用としては3万円から10万円程度が相場と言えるでしょう。高品質で安全性の高いとされる承認薬を使用する場合や、注入量が多い場合は、費用も高くなる傾向があります。また、初診料や再診料、カウンセリング料などが別途かかる場合もありますので、総額でどのくらいの費用になるのかを事前にしっかりと確認することが重要です。費用に関する注意点としては、まず「安さ」だけでクリニックを選ばないことです。あまりにも安価な場合は、使用している製剤の品質や安全性、あるいは医師の技術力に疑問符がつく可能性も否定できません。信頼できる製剤を使用し、経験豊富な医師が適切な診断と手技で治療を行ってくれるクリニックを選ぶことが、安全かつ効果的な治療を受けるためには不可欠です。